総務省の令和8年版情報通信白書は、まず少ない投資で汎用的なAIツールを安全に使える環境を整え、その後に業務プロセス全体の見直しへ進む、段階的な進め方を示しています。補助金・助成金は、来年度の制度がまだ確定していないため、予算は「使えなくても実行できる計画」にしておくことが大切です。
1. いま来年度のAI予算を考える理由
AI予算とは、AIツールの利用料だけでなく、社員が使いこなすための研修や、業務に組み込むための開発・運用まで含めた、AI活用のための費用の計画です。多くの会社では、秋から冬にかけて来年度の事業計画や予算の検討が始まります。この時期に、AIを「何となく使う」から「計画して使う」へ切り替えておくと、年度の途中で慌てずに済みます。
国の調査でも、中小企業のAI活用は広がりつつある一方で、組織としての取り組みはこれからという会社が多いことが分かります。総務省が2026年に公表した令和8年版情報通信白書の企業向けアンケート(2025年度調査)では、生成AIを「積極的に活用する」または「領域を限定して利用する」方針の中小企業は58.1%でした。一方で、生成AIによる業務変革について「組織的な取組はない」と答えた割合は日本全体で27.0%にのぼり、企業規模別では中小企業で特に高い傾向が示されています。
同じ白書では、中小企業で最も多かった回答が「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」だったとし、中小企業のAI活用には経営層が主導する関与(トップダウン)が重要だと分析しています。経営層が予算と目標をセットで示すことは、まさにその第一歩です。
活用方針(中小企業58.1%):総務省 令和8年版情報通信白書「生成AIの活用方針等」。組織的な取組(27.0%)と中小企業の傾向:同「組織的な取組状況」。いずれも日本・米国・ドイツ・中国の企業を対象とした総務省の調査研究によるもので、割合の母数は設問ごとに異なります。
2. AIの予算を3つの箱に分ける
AIの費用は、目に見えやすいツールの料金に偏りがちです。家を建てるときに、建物の代金だけでなく、住み方を覚える時間や、暮らしに合わせた改修の費用も考えるのと同じで、AIも「使える環境」「使える人」「業務への組み込み」の3つがそろって初めて効果につながります。
| 予算の箱 | 主な中身 | 見落としやすい費用 |
|---|---|---|
| ① ツール | 法人向けの生成AIサービスの利用料、AI機能付きの業務ソフト | 利用人数の増加、年度途中の料金改定、管理者の設定作業 |
| ② 研修・定着 | 業務に合わせた研修、社内ルールづくり、使い方の共有会 | 受講中の社員の工数、ルールの更新、新入社員への説明 |
| ③ 開発・仕組み化 | 特定業務のAIエージェント開発、社内データとの連携 | データの整理、運用・保守、効果の測定 |
白書でも、汎用的なAIツールを導入するだけでは「一部の積極的な社員が活用するのみ」で全社の効果につながらない可能性を指摘しています。先進的な企業は、活用例の収集・社内展開や定期的なワークショップなど、使い方を広げる取り組みを並行して行っているとされています。②の研修・定着の箱を空にしないことが、①のツール費を無駄にしないことにつながります。
汎用ツール導入だけでは浸透しない可能性と、活用促進策:総務省 令和8年版情報通信白書「AI導入・活用による効果創出のステップ」。
3. 会社の段階別に、配分の重心を移す
白書は、効果を生むまでの流れを2つの段階で示しています。まず、比較的安価で導入しやすい汎用AIを、情報漏えい対策を施した環境とルールのもとで社員の個人作業に浸透させる段階。次に、経営戦略に基づいて優先する業務を決め、「どの作業はAIを判断の補助に使い、どの作業はAIに任せるか」を設計して、業務プロセス全体を変える段階です。後者では、社内システムやデータとの連携に向けた投資判断が求められるとしています。
この流れに沿うと、来年度の予算の重心は、会社の今の段階によって次のように変わると考えられます。配分の割合に決まった正解はないため、ここでは「どこに重心を置くか」の目安として示します。
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段階1:まだ組織的な取り組みがない
重心は①ツールと②研修。法人向けの安全な利用環境と、入力してよい情報などの社内ルールを整え、全員が基本操作と注意点を学びます。個人が無断で使う「シャドーAI」を減らすことも目的になります。
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段階2:一部の社員は使っているが、広がらない
重心は②研修・定着。部署ごとに効果が出やすい業務を選び、指示文のひな形や活用例を共有し、効果を測ります。研修は一般論ではなく、実際の業務を題材にします。
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段階3:効果の出る業務が見えてきた
重心は③開発・仕組み化。優先する1つの業務に絞って、AIエージェントや社内データとの連携を小さく試し、効果を確かめてから広げます。運用・保守と、人が確認する手順の費用も忘れずに見込みます。
効果創出の2つの段階、シャドーAIの指摘、業務プロセス設計の考え方:総務省 令和8年版情報通信白書「AI導入・活用による効果創出のステップ」、同「AI導入・活用を効果的に進めていくために重要となる要素」。段階の分け方と各段階の重心は、白書の記述をもとにMiToAが整理したものです。
4. 架空の会社で考える:社員30名の卸売業
以下は説明のための架空の業務例で、MiToAの顧客事例ではありません。営業・受発注・経理を合わせて社員30名の卸売業で、何人かの社員が個人のアカウントで生成AIを使い始めている会社を想定します。段階でいえば1と2の間です。
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上期:環境とルールを整える
法人向けのAIサービスを全社員分契約し、社内ルールを1枚にまとめます。全員向けの基本研修のあと、営業部向けに「提案書の構成案づくり」など、実際の業務を題材にした研修を行います。
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下期:効果を測って広げる
営業部で作成時間がどれだけ変わったかを記録し、うまくいった指示文を社内で共有します。受発注のメール処理など、次に効果が出そうな業務を選びます。
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翌年度に向けて:開発の候補を決める
受発注メールの読み取りと入力のように、手順が決まっていて件数の多い業務を、AIエージェント開発の候補にします。開発費は、効果の見込みを確認してから翌年度の予算に計上します。
この例のポイントは、年度の最初から大きな開発費を組まず、上期の結果を見て下期・翌年度の配分を決められる余地を残していることです。予算書には、四半期ごとに見直す時期をあらかじめ書いておくと、計画どおりに進まなかった場合も組み替えやすくなります。
5. 使える公的支援と、来年度に向けた注意点
AIの費用には、国の補助金・助成金が使える場合があります。ただし、来年度(2027年度)の制度は、11月2日時点ではまだ確定していません。今年度の制度の内容を参考にしつつ、確定した公募要領で必ず確認してください。
ツール・導入支援:デジタル化・AI導入補助金
中小企業庁の「デジタル化・AI導入補助金2026」(令和7年度補正予算の事業。旧IT導入補助金)は、AIを含むITツールの導入を支援する制度です。通常枠では、ソフトウェア購入費とクラウド利用料(最大2年分)に加え、導入・活用コンサルティングや導入研修などの「導入関連費」も対象経費とされています。補助額はITツールのプロセス数に応じて5万円〜450万円、補助率は原則1/2以内です。申請は、事務局に登録された「IT導入支援事業者」のサポートを受けて行います。
来年度については、中小企業庁が2026年8月31日に公表した令和9年度の概算要求で、AIを含むデジタル技術の活用と省力化設備の導入を一体的に支援する「省力化・デジタル化・AI投資補助金」が示されています。概算要求は予算案になる前の段階のため、名称・金額・要件は変わる可能性があります。
研修:人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)
厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は、DXなどに伴って必要になる知識・技能を習得させる訓練の経費と、訓練中の賃金の一部を助成する制度です。中小企業の場合、経費助成は75%、賃金助成は1人1時間あたり1,000円です。
予算を立てるうえで注意したい点が3つあります。1つ目に、このコースは令和4〜8年度の期間限定の助成金として創設されたもので、2027年度に続くかどうかは確認できていません。2つ目に、2026年8月3日からの変更で、特定の業務に当てはめない汎用的なプロンプト(指示文)の作り方を学ぶ訓練は助成対象外とされ、営業担当者が提案書づくりに生成AIを使う方法を学ぶ訓練のように、具体的な業務に直結する内容が対象の例として示されています。3つ目に、訓練計画の届け出は訓練開始日の6か月前から1か月前までに行う必要があります。
つまり、来年度の研修予算は「助成金が使えれば負担が減る」程度に考え、助成金がなくても実施できる規模で組んでおくのが安全です。研修の内容も、自社の業務を題材にしたものにしておくと、制度の要件と研修の効果の両面で有利です。
デジタル化・AI導入補助金の対象経費・補助額・補助率:中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金2026の概要」(令和8年10月)。来年度の概算要求:中小企業庁「令和9年度 中小企業・小規模事業者関係 概算要求等ポイント」。リスキリング支援コースの期間・助成率・計画届の提出期間:厚生労働省「令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年8月3日版)」。対象外となる訓練の例:厚生労働省「令和8年8月3日からの変更点について」。
研修に使える助成金・補助金の違いや申請の流れは、AIエージェント研修における助成金と補助金の概要でも解説しています。
6. AI予算の計画書に書いておきたい項目
金額だけの予算書では、年度末に「使ったが、何が良くなったのか分からない」となりがちです。次の項目を1枚にまとめておくと、社内の説明と年度途中の見直しがしやすくなります。
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目的と対象業務
AIで何を良くしたいのか、どの部署のどの業務から始めるのか。
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3つの箱ごとの金額
ツール・研修・開発の内訳と、社員の工数や運用・保守などの見落としやすい費用。
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測る指標
作成時間、処理件数、問い合わせへの回答時間など、導入前に測っておける数字。
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責任者とルール
予算と推進の責任者、入力してよい情報などの社内ルール、AIの出力を人が確認する手順。
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見直しの時期と、使う予定の制度
四半期ごとの見直し日と、検討する補助金・助成金。制度が使えない場合の代わりの計画。
社内ルールの作り方はAGENTS.mdは社内AI活用の「憲法」、AIに任せる仕事と人が判断する仕事の分け方はヒューマン・イン・ザ・ループとは?で詳しく解説しています。
7. よくある質問
Q. AI予算は、まず何から確保すればよいですか?
社内でまだ組織的な取り組みがない場合は、法人向けの安全な利用環境(ツール)と、社内ルールづくりを含む研修から確保するのが現実的です。総務省の白書も、まず少ない投資で汎用的なAIツールを安全に使える環境を整えることから始める進め方を示しています。
Q. 補助金や助成金を前提に予算を組んでもよいですか?
前提にしすぎないことをおすすめします。2026年11月2日時点で来年度の制度は確定しておらず、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースは令和4〜8年度の期間限定の制度です。採択や支給がなくても実行できる規模で計画し、制度が使えた場合に負担が減る、という位置づけにしておくと安全です。
Q. 生成AIの研修なら、助成金の対象になりますか?
内容によります。厚生労働省は2026年8月3日からの変更で、特定の業務に当てはめない汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練を事業展開等リスキリング支援コースの対象外とし、具体的な業務に直結する訓練を対象の例として示しています。申請前に、管轄の労働局で対象となるかを確認してください。
8. 参考資料と制作について
- 総務省:令和8年版情報通信白書「生成AIの活用方針等」参照日:2026年11月2日。生成AI活用方針の策定状況(日本68.9%、大企業74.0%、中小企業58.1%)。出典調査は総務省(2026)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」。
- 総務省:令和8年版情報通信白書「組織的な取組状況」参照日:2026年11月2日。「組織的な取組はない」27.0%、中小企業でトップダウンの関与が重要とする分析。
- 総務省:令和8年版情報通信白書「AI導入・活用を効果的に進めていくために重要となる要素」参照日:2026年11月2日。人間とAIの役割分担を前提とした業務変革。
- 総務省:令和8年版情報通信白書「AI導入・活用による効果創出のステップ」参照日:2026年11月2日。汎用AIによる個人作業の効率化から業務変革への2段階、シャドーAI、活用促進策。
- 中小企業庁:「デジタル化・AI導入補助金2026」の概要発行:令和8年10月/参照日:2026年11月2日。対象経費、補助額、補助率、申請の仕組み。
- 中小企業庁:令和9年度 中小企業・小規模事業者関係 概算要求等ポイント公表:2026年8月31日/参照日:2026年11月2日。省力化・デジタル化・AI投資補助金、地域AXネットワーク事業。
- 厚生労働省:令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年8月3日版)参照日:2026年11月2日。令和4〜8年度の期間限定、助成率・助成額、計画届の提出期間。
- 厚生労働省:人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正 令和8年8月3日からの変更点について参照日:2026年11月2日。対象外となる訓練の例、eラーニングの受講回数。
この記事を書いた人
名古屋大学発ベンチャー認定のAIスタートアップ。中小企業を中心に、業務特化型AIエージェントの開発やAI人材育成・内製化支援を展開。「4週間のスモールスタート(MVP開発)」と現場目線の伴走サポートを強みに、IT専門人材が不在の企業でもリスクを抑えたAI活用を実現します。
専門分野:AIエージェント開発 / 業務効率化 / AI人材育成・内製化研修
代表取締役:井上貴雅
公式サイト:株式会社MiToA 公式HP / お問い合わせ・ご相談はこちら
本記事は公開一次資料をもとに、AIによる調査・執筆補助を用いて作成しています。架空の会社の例は説明用で、MiToAの顧客事例や効果を示すものではありません。補助金・助成金の内容は参照日時点のもので、申請の可否や採択を保証するものではありません。図は独自に作成した説明用イメージです。大学による記事の監修・保証を示すものではありません。
情報確認日:2026年11月2日。訂正のご連絡はお問い合わせ窓口へお願いします。