AIと人の役割分担 / 業務活用の基礎

ヒューマン・イン・ザ・ループとは?AIに任せる仕事と人が判断する仕事

メールの返信、見積書、議事録。AIに任せると便利な仕事にも、人が判断すべき場面があります。専門用語を身近な例に置き換え、無理なく取り入れる方法を考えます。

制作・運営:株式会社MiToA運営責任者:代表取締役 井上貴雅
ノートパソコンで仕事の内容を確認する人のイメージ
ヒューマン・イン・ザ・ループは、AIと人の役割を決める考え方です。写真はイメージです。
この記事のポイント

ヒューマン・イン・ザ・ループは、AIが進める仕事に、人が確認・修正・判断する場面を組み込む考え方です。大切なのは「誰が、何を見て、どの段階で判断するか」を決め、人が必要なときに止められるようにすることです。

1. HITLとは?まずはメール返信で考える

AIに文章を作ってもらうと便利。でも、そのままお客様に送ってよいのかは迷う。そんな場面で役立つのが、ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-loop、略してHITL)です。

日本語では「人間を処理の流れに組み込む」という意味です。ここでは、業務で動くAIに対して、人が途中で情報を補い、内容を修正し、実行してよいか判断する仕組みを指します。

例えば、お客様から商品の納期について問い合わせが届いたとします。AIが質問の要点を整理し、社内資料を参照して返信案を作ります。担当者は、最新の在庫や出荷予定と照らし合わせ、宛先・本文・添付ファイルを確認してから送信を承認します。

AIが下準備整理・作成問い合わせを読み、返信案を作る
人が判断確認・修正根拠と宛先を確認し、承認する
承認した内容を実行・記録メールを送り、結果を残す
図:メール返信にHITLを取り入れる場合の流れ。修正や差し戻しがあれば、下準備の段階へ戻ります。

例えば「納期を教えてください」と聞かれたら

01 AIの返信案

「来週の月曜日に
お届けします。」

資料にある標準の納期で作成。
今回の在庫状況は未確認。

02 人が確認・修正

「在庫と出荷日を確認し、
明日ご連絡します。」

最新情報を確認してから回答。
約束できる内容に直して送信。

説明のための架空のやり取りです。「明日ご連絡」が可能かどうかも、担当者が確認してから約束します。

AIが文章を整えるのは得意でも、参照した資料が古かったり、担当者だけが知っている約束があったりする可能性があります。だからこそ、文章として自然かどうかと、業務として正しいかどうかを分けて確認する必要があります。

重要な処理の前で停止し、人が承認・拒否・修正する実装の考え方:参考資料[1]。

2. 見積書・議事録・コラムでの具体例

人が関わる場所は、業務によって変わります。次の表と例は、役割分担を考えるための架空の業務例です。

業務ごとの「AIの下準備」と「人の判断」
業務AIに任せる作業人が確認すること
見積書確定した単価表と依頼内容から、項目・数量・金額の案を作る作業の抜け、数量、値引き、納期、取引条件、最終金額
議事録発言を整理し、決定事項と担当者・期限の案をまとめる提案と決定を取り違えていないか、担当者と期限が合意済みか
コラム構成や文章の案を作り、確認が必要な点を挙げる事実、出典、自社の考えとの一致、画像や文章の利用条件
顧客情報の更新変更候補と、変更前後の情報を一覧にする対象の顧客が正しいか、変更の根拠があるか、更新範囲は適切か

見積書:計算が正しくても、内容が正しいとは限らない

例えば、AIが単価と数量を正しく掛け算していても、現地への搬入費が抜けていれば、見積もり全体は不十分です。人は合計金額だけでなく、「必要な作業が全部入っているか」「例外的な条件がないか」を確認します。

議事録:「検討しましょう」が「決定しました」になっていないか

会議では、提案・保留・決定が入り交じります。AIの要約に「来月から導入」と書かれていても、実際の発言は「来月から導入できるか検討」だったかもしれません。担当者が録音や発言記録を確認し、確定事項と未決事項を分けて共有します。

コラム:読みやすさと、情報の確かさを別々に見る

流暢な文章にも、誤った数字や存在しない事例が混ざることがあります。公開前には、根拠となる資料までたどり、確認できた事実と自社の意見を区別します。実際には経験していない取り組みを、自社の実績として書かないことも大切です。

3. 開発元が公開する実装と調査

投稿案を、人間が修正・承認できる公開実装

LangChainは「Social Media Agent」というプログラムを公開しています。URLをもとにX・LinkedIn向けの投稿案を作り、人間が修正・承認・拒否できる構成です。文章を生成するだけでなく、人が内容を調整する流れまで含めた実装例として参考になります。[2]

ただし、コードが公開されていることは、すべての企業で同じ成果が出る証明ではありません。自社で使う際には、投稿ルール、確認担当者、認証情報の管理などを別途設計する必要があります。

毎回承認する以外にも、人が関わる形がある

Anthropicは2026年2月18日に、Claude Codeと公開APIにおける人とAIのやり取りの分析を公表しました。経験を積んだ利用者ほど自動承認を使う一方で、必要な場面で途中介入する傾向を報告しています。AI自身が不明点を質問して停止することも、監督の一つの形として扱っています。[4]

この結果は特定の製品や利用状況を対象とした観測です。すべての業務に自動承認を勧める根拠にはなりません。自社では、処理の影響や、間違った場合に元へ戻せるかを踏まえて、確認する場面を決めることが必要です。

4. 確認が形だけにならないために

人が承認する仕組みを入れても、確認が機能するとは限りません。何度も同じ確認を求められると、よく読まずにボタンを押してしまうことがあります。

Anthropicも2026年5月25日の技術記事で、確認の回数が増えるほど注意が薄れる「承認疲れ」を課題として報告しています。人の確認に加え、AIが操作できる範囲を技術的に制限する方法も説明しています。[3]

ペンで書類にメモする人の手元のイメージ

「承認」の前に、この3点

  1. 何をする?宛先・金額・変更する内容
  2. 根拠はある?最新の資料・合意した条件
  3. 迷ったら止められる?修正・差し戻し・相談先
写真はイメージです。人が判断しやすいように、確認する情報と選択肢をそろえます。

これらを踏まえ、MiToAでは、役割分担を考える際の確認項目として次の三つを提案します。

  • 判断に必要な情報をそろえる:メールなら宛先と添付、見積書なら計算根拠と例外条件、データ更新なら変更前後の差分を示します。
  • 修正・差し戻し・停止を選べるようにする:「承認」以外の選択肢と、迷ったときの相談先を用意します。承認後に内容が変わった場合は、変更部分を再確認します。
  • AIが実行できる範囲を決める:例えば、情報を読む権限と、外部へ送信・更新・削除する権限を分けます。確認待ちのまま期限を迎えても、勝手に実行しない流れにします。
「確認しました」を残すだけでは不十分です。

誰が何を確認し、どの内容を承認したのかを追えるようにします。記録には必要な情報を残しつつ、個人情報や機密情報を過剰に保存しない配慮も必要です。

5. 自社で始める5つのステップ

最初から業務全体を自動化する必要はありません。まずは成果物を確かめやすい一つの仕事を選び、次の順番で試してみてください。以下は、参考資料を踏まえたMiToAの導入上の提案です。

  1. 対象を一つに絞る

    例えば「問い合わせメールの返信案作成」。受信から送信までのどこを対象にするか、入力と成果物を決めます。

  2. 間違えたときの影響を考える

    社内の草案と、お客様への送信では影響が異なります。外部への連絡、金額や条件の提示、データの削除など、確認が必要な操作を洗い出します。

  3. 担当者と確認基準を決める

    「担当者が確認する」だけでなく、「納期は最新の出荷予定と照合する」など、何を見るかを具体化します。不在時の担当者も決めます。

  4. 下書きまでの運用で試す

    まずは送信や更新を自動実行せず、人が成果物を確認します。通常のケースに加え、資料不足・例外条件・誤った宛先なども想定し、止まれるか確かめます。

  5. 確認の負担を含めて見直す

    作成時間だけでなく、確認時間、修正箇所、差し戻しの理由、誤送信などの問題を記録します。導入前後を同じ条件で比較し、任せる範囲や資料を調整します。

役割分担の記入例:問い合わせ返信
  • AI:要点整理と返信案の作成まで
  • 人:宛先、回答の根拠、納期、添付ファイルを確認
  • 実行条件:承認された宛先・本文・添付で送信
  • 迷う場合:送信せず、担当者へ質問
  • 見直す項目:作成・確認時間と、修正の内容

目指すのは、AIの作業量と人の確認能力が釣り合う運用です。下準備を任せることで生まれた時間を、お客様の事情を理解することや、例外への対応に使えるかも確かめていきましょう。

6. よくある疑問

すべての処理を、人が毎回確認する必要がありますか?

確認の方法は、業務の影響や社内ルールによって変わります。社内向けの草案作成と、外部への送信やデータ削除は分けて考えます。毎回の承認が必要な操作を決め、それ以外の処理にも、問題を把握して止められる仕組みを用意します。

AIへの指示に「必ず確認して」と書くだけで十分ですか?

重要な操作では、指示文だけに頼らず、仕組みとして承認前に処理を止める設計が必要です。AIへの指示と、実際にできる操作の制限を組み合わせます。具体的な実現方法は、使うサービスやシステムによって異なります。

人が確認すれば、ミスはなくなりますか?

なくなるとは限りません。人も見落とすため、根拠を確認しやすい画面、操作権限の制限、記録、問題発生時の対応を組み合わせます。導入後も、実際の誤りや負担を見て調整することが大切です。

AIに詳しい社員がいなくても始められますか?

まずは、日頃の業務で「ここだけは間違えてはいけない」と考える項目を挙げるところから始められます。そのうえで、使うサービスの情報管理や確認機能を確かめ、送信・更新を伴う連携が必要な場合は、システム担当者や支援会社と設計します。

7. 参考資料と編集方針

本文の技術的な説明と調査の紹介は、開発元が公開した以下の一次資料を参照しています。すべて2026年10月26日に内容を確認しました。

  1. LangChain:Making it easier to build human-in-the-loop agents with interrupt公開:2024年12月14日。参照日:2026年10月26日。
  2. LangChain:Social Media Agent(公開ソースコード)公開:継続更新。参照日:2026年10月26日。
  3. Anthropic:How we contain Claude across products公開:2026年5月25日。参照日:2026年10月26日。
  4. Anthropic:Measuring AI agent autonomy in practice公開:2026年2月18日。参照日:2026年10月26日。

この記事を書いた人

株式会社MiToA(ミトア)

名古屋大学発ベンチャー認定のAIスタートアップ。中小企業を中心に、業務特化型AIエージェントの開発やAI人材育成・内製化支援を展開。「4週間のスモールスタート(MVP開発)」と現場目線の伴走サポートを強みに、IT専門人材が不在の企業でもリスクを抑えたAI活用を実現します。

専門分野:AIエージェント開発 / 業務効率化 / AI人材育成・内製化研修

代表取締役:井上貴雅

公式サイト:株式会社MiToA 公式HP / お問い合わせ・ご相談はこちら